書評
2012.11.25 (Sun)

最近、僕の追求・模索してるテーマは「人生」じゃないかと思うようになってきました。

自分の会社を「新しい企業像や労使関係の社会的実験場」と公言&実践していたり、ワークライフバランスや人の幸福感について思いを巡らしてみたり、「資本主義だからこそお金が全てなのだ」と言ってみたり、家族とは何か・自己を律するとは何か考えてみたり、「生が幸せ死は不幸せ」という従来の死生観に疑問を持ってみたりと、これらをまとめたら人生について考察してるって事と同義だよねと。

経営経験を積むと滅茶苦茶考え過ぎる時期がくるよ…とある経営者に言われた事がありますが、まさに今がその時かも知れません。別にそれに抗う必要はないと思ってて、最近、考えをもっと整理したり更に深めたりする為の知識を得るべく本を読みあさってます。買うペースは増えるにまかせて本と対峙する時間を増やしてるのですが、最近「これは何度も読み返したいな!」と思った本を御紹介します。

何か前置きが長いですが、人生で大きなウェイトを占める「仕事」の未来に目を向けた書籍。

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉 ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
リンダ・グラットン 池村 千秋
by G-Tools

端的に言うと 働き方の未来予想 をまとめた本。2025年に僕らはどんな働き方をしているんだろう?という問いに、著者独自の調査や過去の公開資料等を元に一つの解を提示するものです。あくまで予想というていで書かれてますが、読んでみた感想としては、多分こうなるよね…とほぼ全てにおいて同意できる内容でした。多分、書いてる事は 解で、この本は未来予想じゃなくて未来予定と言っても良いかも知れない。だからすべての人に読んで欲しいと思いました。

導入部で非常に印象的だった一文。

これまで漫然といただいていた常識の多くを問い直す必要があるだろう。変化に目を閉ざすのは無謀で危険だし、過去にうまくいったやり方が未来に通用すると決めつけるのも楽天的すぎる。それは、自分と大切な人たちの未来を危険にさらす態度と言わざるをえない。

半ばの章では、もっと端的に

あなたとあなたの友達とあなたの子どもたちにとって、漫然と未来を迎えるという選択肢はもはやありえない

と述べています。「漫然と」という言葉は本書で警鐘的に多用されるキーワードで、読中や読後に募る危機感は、以前に読んだ「大震災の後で人生について語るということ」の読後感とほぼ被ります(その時の書評はこちら)。日本だけでなく世界中の先進国の人々が同じ感覚でいるのでしょうね。自分の親世代と同様に未来が普通にやってくると思い込んでる。

しかし本書は、未来が過去の延長線上にはもはや無いと主張します。その根拠は何で、だからどう変わるべきか。その「変わるべき」をこの本では「シフト」と読んでいて、具体的に3つの指針を提示しています。何となくこのままじゃヤバイよな…感がある人にとっては、そのモヤモヤ感を明快に言語化してくれているので読後に爽快感と危機感が同時に募ること間違いありません。

本書が言う「シフト」とは以下の3つ

  1. 知的資本の増強
  2. 人的ネットワークの増強
  3. ライフワークバランスの覚悟

この3つを意識した働き方に自らを変えていかないとsurviveできないのだそうで。

確かにそうでしょうね、テクノロジーの進化や長寿化、グローバル化と社会変化の勢いが加速度的に増す中で変化に対応出来ない人(つまり漫然と将来を迎える人)が取り残されるのは仕方のない事です。ダーウィンが言ったように、変化の時代に生き残れるのは強者でも賢者でもなく変化できる者だから。

(1)自分の専門分野を作り徹底的に伸ばす事、分野を固定せず広く深く追求すること。(2)人的繋がりを資本と見なし良い協力関係の構築の土台とすること。(3)自分にとって本当に大切なものは何かを考察し場合によっては犠牲を払う覚悟を厭わないこと。

いずれも「漫然さ」とは真逆で「能動的な選択」が必要になると説いています。しかも、いずれかだけで十分なのではなく全てが必要になると。大手に勤めているから大丈夫…は論外。What’s your speciality ? に明快な答えが必要で肩書きはもはや将来を保証しません。加えて Speciality があるだけでもダメ。どんなに専門と高い技術力があったとしてもその人と仕事したいと思える魅力を備えてないと関係は継続しない。そんな事を言っています。

何となくこの平穏な日々は続くのだろうと考えている人には気が重い本ですが、何故今行動を起こさねばならないかの根拠、漫然と迎える未来に何が待ち受けるかの論述は、surviveする為の決して間違っていない重要な行動指針となりますので、労働とは無縁だという人以外の全ての人にお勧めしたい書籍です。

すべての労働者・経営者に「働き方」を考えなおすキッカケを与えてくれる良書。★5つ。


2011.11.23 (Wed)

40年に一度という大阪市長選挙・大阪府知事選挙のダブル選挙、決戦の時が近づいて来ました。大阪市内に住む僕はこのダブル選挙にダブル投票する機会を得ています。誰に投票するかは決めているのですが、大阪都構想の仔細や背景をもう少し知りたくて読んでみた次第です。

日頃から論理性や合理性を求める僕には共感出来る内容ばかりで非常に分かり易い本でした。限られた活字量で事の本質を巧く凝縮していると思います。本質とは、世界の都市間競争に取り残されないように役割をハッキリさせて効率よく大阪という地域を強くしていきましょう…って話。

関西の夕張市(2007年に財政再建団体に指定された)にいつなってもおかしくない大阪の現状を見据え、高齢化による税収減と、時代変化に取り残される事による経済低迷を見越してた上で「はよ改革せな!」とする橋下氏が、旧体制を維持しつつ出来そうな所からと論理性/合理性とスピード感に欠ける平松氏勢力を論破する構成です。そこに、堺屋太一氏との対談録で大阪都は変われない日本という国が変わる試金石になるとして大阪都構想を後押しする感じ。

Untitled © 2011 Sho Ito, Flickr

根底は役割分担。

影響力が大き過ぎる割にマクロな視点を持ててない大阪市を含めて大阪行政の仕組みを一旦リセットし、マクロに考える都と、ミクロに考える特別自治区&市町村に分けて、予算編成権も伴う形で役割分担しましょうと。

経営者が方針を定めコントロールして全体最適を図り、現場のマネージャーが決裁権を持ちながら部分最適を図るという組織論を行政に当てはめる感じに近いです。効率良いですよね、その方が。

読めば読むほど合理的でドラスティックな大阪の未来像が見えて、僕は読みながらワクワクしたぐらいなのですが、現状維持が大好きとか変化が嫌いな方々はイマイチ理解に苦しむかも知れませんね。現状維持を全否定している内容ですので。

何はともあれ大阪都構想の仔細や、世界が都市を単位に見る時代の行政がどうあるべきかを知るには良い本です。★4つ。

で、余談。

僕はもちろん大阪維新の会側に投票します。時代に適応しようとしない組織は滅びるしか無いのは自明だし、変化の激しい時代には「変わる」「変わらない」で後者の選択は延命で場を凌ぐに過ぎない自殺行為でしかないから。

維新の会に投票したら行政サービスの質が落ちるって見解も目にするのですが、財政再建団体に指定されたら一緒なんですけどね、結局低下しますよ。延命でしかない。

既得権益者と高齢者の便益を優先する事は、子供や孫の未来を考えたら絶対出来ない筈なんですけどね。僕のかつての同僚にもいましたが、そういう人は多分「子供の存在意義は老後の自分達を守るため」と平然と言ってのけるんだと思います。

変化できない組織が、5年もっても10年後どうなってるか。これはまぁ大阪に限らず日本全体に言える事ですが、多分、失われた30年、失われた40年、そしてしまいには失われた日本になるんですよ、きっと。

  • 既存体制 vs 時代適応勢力
  • 年配者 vs 若者
  • 感情 vs 論理
  • 短期的視点 vs 長期的視点

こんな構図の前者が優先される時代に一石を投じないと。だから僕は「変わる」為の意思表示をしたいと思っています。


2011.11.14 (Mon)

毎朝食事しながら前日分を倍速再生で見ているワールドビジネスサテライト(WBS)。毎週変わるコメンテーターの中で個人的に最も好きなボストンコンサルティンググループ日本代表の御立さんの新刊です。

日経ビジネスオンラインの連載記事を書籍化したもので、激動の時代を生きる基本的な考え方に気づきを得るのに良い書籍だと思います。2010年の少し古めの記事もありますが一貫して貫かれてる内容は、変化の激しい時代であること、それに適応する企業・個人のみが生き残れるのだということです。

自ら強い意志を持って、「変化適応力」を構築していくことが極めて重要だ。こういった姿勢を早くとった企業、社会、あるいは国が生き残る確率が高い、と信じ、活動していくことが、今こそ必要だと考えている。(p.12)

重要なのは、変化適応力が、より成長する為に必要なのではなく生き残るために必要であるという事です。そう、変化適応力が無い個人は、組織は、国は、死ぬって事を言ってます。よりよい未来を獲得する為に変化するのではありません、生きていたいなら変化すべしって事です。

その為に何が必要か、例えば何を変えれば良いか…のヒントが随所に散りばめられています。

Dead and Alive © 2011 _HAAF_, Flickr

国という観点では特に医療や教育に多めのページが割かれている点は興味深いです。スウェーデンの医療情報共有の取り組みがある疾病の生存率を劇的に高めた事に見習うべしという提案(p.122〜)、中国語・ベトナム語・インドネシア語を第二外国語にすべしというアジア戦略を画した大学カリキュラムの提案(p.257)、などなど

企業という観点で紹介されている、トラック屋なのにトラック販売から売り上げを上げないメルセデス・ベンツの欧州トラック部門の例(p.242)、エンジン販売だけを売り上げにしないGEのジェット機用エンジン部門の例(p.242)など、想定顧客のcore valueを分析した上に成り立つ新しいビジネスモデルは示唆に富んでいます。

書き出すとキリが無いのでこのへんにしておきますが、読み易く非常に良い本だと思います。震災前の記事で医療ツーリズムが提案されているものの今は原発問題でそれどころじゃなくなってしまってるとか違和感を感じる箇所もありますが、連載まとめ系の書籍なのでしょうがないでしょう。

マネージャや経営者にお勧め。星4つ。


2011.09.25 (Sun)

久しぶりの小説です。グイグイ引きこまれて一気に読みきってしまいました。

 

中国の威信をかけた世界最大規模の原子力発電所の建設から稼働、そしてその後を描いた物語。後半で物語の中心となる原発の名前を福島第一原発と読み変えれば、預言だったのかと思えるぐらいに3.11直後から起こってきたことと同じ事が描かれている驚くべき作品です。

電源の全喪失、予備の電源も失われる危機的状況、建屋の爆発と火災、放射能汚染…等々。

書かれたのは3年以上前なのに小説の中で起こった事がリアルな惨状と余りにも酷似しており、読みながら驚きを隠せませんでした。最後がビックリするぐらい尻切れトンボな終わり方で拍子抜けしたのですが、今ならば関係者に聞き込みをせずともノンフィクションとして続編が書けるんじゃないかってぐらいです。

読了して強く感じたのは、実はこの小説は中国に対しても預言になったりしないかなという恐怖感。

色んなモノが何故か爆発するのは有名な話ですし、四川大地震で散々あらわになった杜撰な建築の数々や、記憶に新しい高速鉄道の衝突事故など、品質や安全の信用を失墜してばかりの中で、果たして安心して悪魔の劫火となり得る原子力発電所の運転を任せられるのか。(まぁ日本においても前例が出来たので、その意味では同じですけど)

今中国で稼動している原発は11基だそうですが、十数年後には世界一の原発大国になる規模の計画もあったと言いますし、3.11で少しブレーキはかかってたものの最近こんなニュース(中国、12年初めにも原発計画の審査・承認再開へ=報道)もあったりで。

将来3.11と同じ事が起きやしないか。例えば沿岸に建設される中国の原発がそれこそ爆発でもしようもんなら考えたくはないけど日本終了は確実な訳で。原発神話が脆くも崩れた今、リスクの極めて高いモノをリスクヘッジが総じて甘いと思われている隣国が扱っている事実、そしてもっと扱おうとしている彼らの気概に僕は素人ながらの恐怖を改めて感じざるを得ませんでした。

…とは言ってもここまでスケールが大きくなるとどうしようもない感がありますが、それでも楽観視は出来ないというやり場のない焦燥感は募るばかり。ホントどうすりゃ良いんでしょうね。橘玲の「大震災の後で人生について語るということ」の書評エントリでも書きましたが、何かに依存せずとも自立できる術を見に付けて生き続ける為のスキームを組み立ててくしかない…ってのが僕の今の解ですけども。

 

って訳で真山仁のベイジン。小説として引き込まれる魅力がありましたが、3.11の後に読むととても複雑な心境になってしまう作品でした。登場人物の一人、日本の技術顧問である田嶋が楽観視出来ない状況下でも「それぞれの使命を全うすべし」と言った言葉は自分にも向けられている気もしました。もの凄く考えさせられます。

…とはいえ、最後の尻切れトンボはやっぱり残念だったので★4つ。

 


2011.09.11 (Sun)

久しぶりに書籍のレビューを書いてみようと思います。言わずと知れた橘玲氏の新刊です。

こんなに従来の価値観をバッサバッサと全否定で切り捨てていく本を僕は知りません。

ある人にとっては目を背けたくなる真実の羅列に過ぎない書籍と言えますが、不可逆な歴史的変化を立て続けに経験している日本社会での人生設計再考を説いた貴重な本であり、ロジカルで且つ納得のいく分かり易い設計再考の指標本と言えるでしょう。

数十年前に日本を覆っていた定説、そして今もまだそれが当たり前だと思われている4つの神話が、もはや崩れ去りつつある事を否定しようの無い論理で教えてくれます。4つとは以下。

  • 不動産神話
  • 会社神話
  • 円神話
  • 国家神話

これらが1997年のある出来事から日本社会の潜在的なリスクと化したことを述べ、2011年の大震災を機会に今改めて問うべき事としています。著者は著名なタレブによる著書を引き合いにだし、1997年と2011年が二羽の「ブラック・スワン」(起こる筈の無い事が起きる事)であり、「ブラック・スワン」を目にしながらまだ人生の設計図を高度成長期の幻想で描き続けるのですか?と読者に警鐘を鳴らしています。

(p.133)

リスクを回避し、安定した人生を送るために、私たちは偏差値の高い大学に入って大きな会社に就職することを目指し(会社神話)、住宅ローンを組んでマイホームを買い(不動産神話)、株や外貨には手を出さずひたすら円を貯め込み(円神話)、老後の生活は国に頼る(国家神話)ことを選んできたのです。

しかし皮肉なことに、こうしたリスクを避ける選択がすべて、いまではリスクを極大化することになってしまいました。

括弧内は本ブログで補記

ある程度のファイナンスの知識が無いと読み切れないのですが、従来型の人生設計がBS(貸借対照表)で図示された途端に、如何にもろい設計かが分かって恐ろしくもあります。

あ、これ破綻する、みたいな。

その危機を逃れる術は、神話を疑い不可逆性の高い決断をしない事、そして「個」として自立する事しか無いと説きます。「自分」以外の拠り所とするモノがある時点で Game Over と言われている気もする程に強烈な論調で、心当たりのある僕は相当にグサリと来ました。

賃貸住まいでベンチャー経営なので2つの神話からは逃れられていますが、円神話・国家神話にはまだ囚われている事を改めて自覚し、自分や身内を日本円や日本国から如何にして切り離していこうか…と、意識して考えなくちゃいけないなと感じた次第です。

Black Swan © 2011 antinee, Flickr

3.11の二羽目のブラック・スワンをきっかけに日本が変われなければ崩壊するしかないと、著者は微かな光明を匂わせつつ本書を終えていますが、読んだ感想では崩壊以外に考えられないとしか考えてないでしょ?とツッコミを入れたくなります。崩壊しか無いという意味では僕自身激しく同意ではありつつも、目下は次の1ヶ月,1年,3年をどう生き抜くかに必死にならざるを得ない自分のラットレースぶりに凹みもしました。

これが悲しい現実。

でも、世界は180度変わったのだという体系だった論拠を手に出来た事は大きな収穫です。そして成すべき事に向けた計画も早速作り始めました。漫然とした不安が拭えない方や、厳しい現実を知りたい方に超オススメです。無論、★5つ。