久しぶりに書籍のレビューを書いてみようと思います。言わずと知れた橘玲氏の新刊です。

こんなに従来の価値観をバッサバッサと全否定で切り捨てていく本を僕は知りません。

ある人にとっては目を背けたくなる真実の羅列に過ぎない書籍と言えますが、不可逆な歴史的変化を立て続けに経験している日本社会での人生設計再考を説いた貴重な本であり、ロジカルで且つ納得のいく分かり易い設計再考の指標本と言えるでしょう。

数十年前に日本を覆っていた定説、そして今もまだそれが当たり前だと思われている4つの神話が、もはや崩れ去りつつある事を否定しようの無い論理で教えてくれます。4つとは以下。

  • 不動産神話
  • 会社神話
  • 円神話
  • 国家神話

これらが1997年のある出来事から日本社会の潜在的なリスクと化したことを述べ、2011年の大震災を機会に今改めて問うべき事としています。著者は著名なタレブによる著書を引き合いにだし、1997年と2011年が二羽の「ブラック・スワン」(起こる筈の無い事が起きる事)であり、「ブラック・スワン」を目にしながらまだ人生の設計図を高度成長期の幻想で描き続けるのですか?と読者に警鐘を鳴らしています。

(p.133)

リスクを回避し、安定した人生を送るために、私たちは偏差値の高い大学に入って大きな会社に就職することを目指し(会社神話)、住宅ローンを組んでマイホームを買い(不動産神話)、株や外貨には手を出さずひたすら円を貯め込み(円神話)、老後の生活は国に頼る(国家神話)ことを選んできたのです。

しかし皮肉なことに、こうしたリスクを避ける選択がすべて、いまではリスクを極大化することになってしまいました。

括弧内は本ブログで補記

ある程度のファイナンスの知識が無いと読み切れないのですが、従来型の人生設計がBS(貸借対照表)で図示された途端に、如何にもろい設計かが分かって恐ろしくもあります。

あ、これ破綻する、みたいな。

その危機を逃れる術は、神話を疑い不可逆性の高い決断をしない事、そして「個」として自立する事しか無いと説きます。「自分」以外の拠り所とするモノがある時点で Game Over と言われている気もする程に強烈な論調で、心当たりのある僕は相当にグサリと来ました。

賃貸住まいでベンチャー経営なので2つの神話からは逃れられていますが、円神話・国家神話にはまだ囚われている事を改めて自覚し、自分や身内を日本円や日本国から如何にして切り離していこうか…と、意識して考えなくちゃいけないなと感じた次第です。

Black Swan © 2011 antinee, Flickr

3.11の二羽目のブラック・スワンをきっかけに日本が変われなければ崩壊するしかないと、著者は微かな光明を匂わせつつ本書を終えていますが、読んだ感想では崩壊以外に考えられないとしか考えてないでしょ?とツッコミを入れたくなります。崩壊しか無いという意味では僕自身激しく同意ではありつつも、目下は次の1ヶ月,1年,3年をどう生き抜くかに必死にならざるを得ない自分のラットレースぶりに凹みもしました。

これが悲しい現実。

でも、世界は180度変わったのだという体系だった論拠を手に出来た事は大きな収穫です。そして成すべき事に向けた計画も早速作り始めました。漫然とした不安が拭えない方や、厳しい現実を知りたい方に超オススメです。無論、★5つ。