書評
2016.07.31 (Sun)

先日こんなエントリを書きました。

facebookを見る頻度を下げたら読書量がだいぶ増えた話

facebookに限らず結局スマフォをすきま時間に見ていることが多いんですよね。ニュースアプリとか。最近だとポケモンGOもですかね。僕もちょっとやってますけども、でも隙間時間にスマフォへ伸びる手を本に切り替えるようにしてから、最近はスマフォより本を見てるほうが多くなりました。

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(Thanks! the photo on flickr by Sebastien Wiertz CC BY 2.0)

スキマ時間にする読書なので すきま読書。スマフォ持つより本を持つ。とは言っても余り無理してる感じはなくて、手を伸ばす先を本にしてるだけです。塵も積もればなんとやらで、7月は更に読書量が増えました。行動習慣の変化が分かり易く読書数に繋がってます。

一方、facebook等から得ている情報は減ってる気がしますね。情報源の一つではあるので、これはこれで見過ごせない事態ではあるのですけど。まぁ対策は別途考えるとして、7月の読書です。

10冊!月に10冊はこれまでの自分を振り返ってみても初めてかも知れません。

どれも面白かったですが、今月の中だと特にお勧めしたいのは池井戸潤の7つの会議。企業を舞台にしたビジネス小説は経営者として学ぶことや気付きが多いです。有事の時ってこうなっちゃうのだなやっぱり…って思ったりしました。前半が単調で読み疲れるとか、盛り上がりにかけるとか、そういうのが全く無く最初から最後まで楽しめました。

記憶屋シリーズは、ライトノベル的なものも良いかも…と手にとった本。I巻の前半でちょっと間延びした退屈感が募り、途中で止めそうになりましたが止めなくて正解。後半の盛り上がりと予想外の終盤に読んでてマジか!と声を出したぐらい。II巻もIII巻も同じ。総じてやるせなくせつない物語です。

SOFT SKILLS はソフトウェア業界の関係者は全員問答無用で読むべし!!と言っても言い過ぎではない名著でした。思うところ沢山あるので、この本についてはレビューを改めて書きたいと思ってます。

という訳で2016年7月の読書でした。スキマ読書良いですね。これは何気に広めていきたいかも。勿論、読むばっかりじゃなくてアウトプットもしっかりやってまいります。


2016.05.07 (Sat)

そうだ、熊本いこう。

…と思い至ったのが当日(5/5)の3日前。九州各地、42万人分の宿泊キャンセル ってな報道もありましたし、震災直後から僕も風のうわさで現地観光のキャンセルが出まくりらしいことを聞いてました。

 

寄付や買い物だけではお金が届かない人達がいる

個人では寄付をして、代表を勤める2社からも寄付をすべく顧問税理士との打合せも済んで実施直前、買い物したり食事をしたりする時は極力熊本産・大分産のものにと意識してきました。

…が、キャンセルの件を見聞きしてふと思った訳です。

寄付と買い物だけでは全くお金の届かない、困ってる人達が結構な数いらっしゃるなと。直接的な被災はほぼ皆無なのに、悪いイメージだけが広がってしまってキャンセルの嵐に見舞われたサービス業の方々。

義援金としての寄付金は直接被災された方向けに分配されるのでそういった方々には届きません。支援金名目の寄付金も被災地支援をされるNPO/NGOの活動資金に充てられるので同じく届きません。そして、僕らが幾ら現地産のものを買ったところで物販してない方々にはお金を届けようがないのです。

支援的金銭移動の影で現地サービス業の方々が、いきなり売上9割減みたいなことになってると。これはなかなかシビアです。

なんかこう、自粛の美学というんでしょうか、極端なリスク過敏というんでしょうか。そういう反応が今は普通なんだそうですね。残念なことです。ですが、上述の状況を考えると他にまだできることがあるよね〜と感ずるに至り、現地でお金を使いに行くべく突然の熊本旅行を決めた次第です。

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昨年秋に泊まってとっても良かったお宿、熊本は黒川温泉の和らくさんが、そのfacebookページでキャンセル多発な状況を発信されてたのも結構大きかったのですけどね。

実際の現地の方の感触を知りたかったので早速TEL。お話を聞いて、道路も問題無さそうだってこと、行くことが逆に御迷惑になる雰囲気って訳でもなさそうってことも分かったので即決しました。

突然の旅行計画に奥さんは最初ポカーンとしてましたが、2日間付き合ってくれたことに感謝です。

 

北からのアプローチは何一つ問題ない

新幹線で新大阪から博多へ。お得意の始発出発なのでAM8:30には博多に着いてました。その後、レンタカーで、

高速使って九州道・大分道と乗り継いで玖珠で降りて、そのまま国道387号→442号で現地着というルート。ってGoogle先生のナビの通りに運転しただけなんですけどね。全くもって何の問題もありませんでした。

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高速道路もほぼ全て復旧。九州道の熊本市周辺で一部速度制限があるのと、大分道で由布院〜日出間だけが通行止めになっていたのみ。それ以外は何の問題もなくて、むしろガラガラ。とても走りやすかったです。土砂崩れだとか、そういう景色も予想してましたが皆無でした。サービスエリアも通常営業で至って普通。

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玖珠で高速を降りて暫く走りましたが、震災の傷跡のような様子は全くありませんでした。トンネルがどうこうなってるってなことも勿論無かったです。道はやはり空いていました。

国道212号の一部とか通行止めの場所もあったようですが、ルート上ではなかったので問題なし。仮に通行止めにぶち当たってもGoogle先生なりYahooナビアプリで宜しく誘導してくれるだろうと思っていたので不安は全くありませんでした。

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阿蘇のカルデラを一望できる大観峰は普通に営業してましたね。人は少なめながら、展望台までいけないとか観光できないとかそういうのは全くありませんでした。普通に景色を満喫できました。

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景色が綺麗なミルクロードも走れましたし景観も楽しめました。牧場では体験乗馬ができるところも営業中の看板を掲げていたので普通に遊べそうでした。僕らは時間がなくてできませんでしたけども。

ただ、南阿蘇方面まで足を伸ばすと震源に近い為か地震の傷跡が散見されるそうです。とはいえ普通に観光はできるようなので、ご興味あればこちらのレビューをご覧頂くと良いかと。

僕らは阿蘇北側がメインでしたが、北側から黒川温泉に行くまでとその周辺で観光する分には心配なし と言えると思います。(余震気にしだすとキリないですが、その点は後述)

強いて残念だった事をあげるとすれば、有名なラピュタの道が崩れて入れなくなっていたことでしょうか。

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(元々整備されていた訳でもない隠れスポットだったので致し方無い感はある)

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(昨年行ったときはこんな景色が見れた)

ラピュタの道以外については特段、目に見てわかる震災の影響というのはありませんでした。それよりかはやはり、通常のGWであれば有り得ないんだろうなぁ…と思えるぐらいの人や車の少なさが目についたことが心配でしたね。

 

貸切状態のお宿で奥黒川を満喫

お尋ねした和らくさん、もともと山間で静かに憩う大人限定宿というコンセプトのお宿で客室11室のみという所なのですが、平時の予約の取りにくさとは真逆で当日の宿泊客は僕ら1組だけ。

山間に佇む静かな宿ってこともありリピートされる方がとっても多いそうなんですが、そんな人気のお宿がGW中にも関わらず文字通り貸し切り状態という貴重な機会となりました。

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客室ゾーンは自分ら2人だけなので静けさが際立ちます。鳥のさえずりが何とも言えない和やかさを演出してました。

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通常は男女分かれている露天風呂は完全に家族風呂状態に。

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併設されているバーで頂いたフルーツカクテル。あまおうをそのまま食べているかのような甘い飲み心地。

こちらのマスターが作るフルーツカクテルを目当てにお越しになるリピート客さんが多いと昨年お邪魔した時にはお聞きしました。納得の美味しさで僕らも今回おかわりを頂いたぐらい。

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これはウッドデッキで仕事をする…の図。ゆったりまったりな環境で良い感じに仕事を進めることができました。

全体として、お宿の設備が何か困ったことになってるとか、お料理の質が下がってしまってるとか、そういったことは全くなく、昨年同様に滞在を楽しむことができました。お話を聞く限り同じ温泉の他のお宿も同様に皆さん普通に営業されてるとのこと。被害なんにも無いんですよね。でも客足が遠のいちゃったと。これは辛い。

黒川温泉、泉質とても良いですし、まわりは自然が豊かだしってか自然の中にあるし、天気が良いと阿蘇のカルデラをドライブして景観も楽しめるし、料理も変わらず美味しかったし、震災後の今であっても個人的にお勧めしたい温泉です。

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(赤牛も美味しい!これは大観峰で食した串)

僕はお宿は上述の和らくさんにしか泊まったことがないのですが、写真の通り静寂感が素晴らしいし、バーのフルーツカクテルはここにしかない価値で楽しめるので、経営者仲間の皆さんには特に是非行って貰いたいなぁと思ったりしてます。

 

雰囲気やイメージだけでのキャンセルは勿体無い

今回、急な訪問でしたが、途中の博多界隈での観光も含めて普通に楽しめました。こんな時期だからこそ多くの人にキャンセルせずに九州に是非行って貰いたいと思いますね。もうGW終わっちゃいますけども。

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(毎日大阪天満宮でお参りしてまして、天満宮繋がりってことで太宰府天満宮にも行きました。)

万が一、GW明け以降の予約をキャンセルされてる方がいれば訪問予定だった先に電話で確認して問題無さそうなら是非再予約を。また、予定が無くてもちょっとのどかに温泉でもつかりながらまったりしたいなぁという方は是非、九州方面で予約の御検討を。

誤解を恐れずに言うと、都会の喧騒から離れた憩いや安らぎを観光に求めるのなら、今こそ直接被害が無いのに客足が遠のいている周辺地域に行くべき です。

余震もあるし安全の為に無難にキャンセルというのも分からないではないですが、地震に関してはこの日本のどこに住んでいようがもはや一緒ですからね。今の熊本・大分より自分が住んでいる場所の方が、明日、激甚災害レベルの地震が発生する確率が低いなんて誰も言えません。それぐらい地震予測は難しい。

むしろ、観光業を生業とする地域から客足が遠のき、不運にも立ちいかなくなり、地域の法人や個人の所得が落ちて、その地域以外から物品やサービスを何かしら購入する行為まで抑制される(自分の街にマイナスになる可能性も)という経済的機会損失の連鎖が起こるリスクを問題視すべきでしょう。

経済活動はお金の流れであり、地域に関わらずどこかしら何かしら繋がっているもの。お金の流れを絶たないように、余震のリスクに過度に怯えず恐れを払いのけ、むしろこういう状況を、前述したようなインセンティブを得られるかも知れない機会と捉え直し、お金を積極的に使いに行ったほうが良いと思うのです。

直接的被害を受けていない地域のお元気な様子をこの目で見て体感し、その思いを強くしました。また機会を見つけてお邪魔したいなと思ってます。


2016.04.27 (Wed)

インプットばかりでもいけないので本についても積極的にアウトプット。月1ぐらいで書評書けると良いなぁと思ってます。

今回読んだのは…タイトル長いですね。ようはビジネスで成功して大金持ちになった人の思考や行動の秘密を解き明かす本です。

この手のタイトルって、本田健とか神田昌典テイストなゆるふわ自己啓発色が強そうなので10年前ならまだしも最近は余り読むことがないのですが、たまたま立ち寄った本屋で目に入ったという縁と、表紙に書いてるPwC公式調査という言葉にデータ的裏付けがあるんやねと興味を持ったことが理由で買いました。

良い本だと思います。

お金持ちに持つイメージの誤解

本書は、ビリオネアになれる人は普通の人と何が違うのか?という問題提起が出発点。大きなリスクを取る人とか、新しいマーケットを狙える人とか、もっともらしい理屈は世間に溢れてるものの客観的なデータが無いという壁にぶち当たって、PwC内でチームを組み、データを集め分析を行ったと。

PwCというとプライスウォーターハウスクーパース。国際的に有名なコンサルティング会社ですね。なので、本書はガチの研究レポートです。PwCは、iPhoneの世界でいうと、まだiPhone3Gが出たばかりの2008年に全社員導入を決めた事例で有名です。

PwCのチームは、ビリオネアのリストから自ら真っ当なビジネスで資産を築いた人物600人を抽出、地域や業種に偏りが出ないように120人をランダムに選んで出身地・家族構成・結婚歴等を比較。インタビューもちゃんと行ってキャリア変遷など定量化できない情報も加味して分析したんだそうです。

結果、普通にありそうな億万長者のイメージ、

  1. 若くして成功している人が多い
  2. IT分野で成功している人が多い
  3. 全く新しい市場で大成功した人が多い
  4. 運良く一発を当てれた人が多い
  5. モラルが低そうな人が多い
  6. 一夜にして成功を収めたような人が多い
  7. 元々才能があった人が多い

が全部嘘だと分かったよ〜〜って言うんですから面白いですよ。そうかいな!と。

非ITを含む約50名のビリオネアの事例

上に列挙したお金持ちイメージがなぜ嘘と言えるのか、データと実例に基づいて解説しているのが本書の特徴でしょう。出てくるビリオネアは総勢49名。IT系の著名人も含まれていますが、クルーズ会社、石油採掘会社、ピザ屋チェーン、アパレル会社、不動産会社、などなど業種は様々。最後には全員のプロフィール紹介に20ページも割いてます。

具体的事例の多さは上記3.が誤解であることを頷かせるに十分な情報であり、

われわれが調査したビリオネアの8割は、競争の激しい市場、いわゆるレッド・オーシャンで成功を手にしているのだ。

という一文は本書を読みきれば確かにそうだと納得できるものがあります。新しいものを追いかけるだけが良い思考じゃないと。

ウチは既にアプリ開発事業をやめたところですし、昨今の FinTech だ IoT だ VR だとキーワードドリヴンなビジネス作りに若干疑問も感じている所だったので自分的に一番響いた部分です。(FinTechやIoTを否定する訳ではないですが、どんな課題を解決するのかが見えず、とりあえず盛り上がってる感を感じることがままあります)

メディアはよくお金持ちになった結果のイメージを切り取って報じますよね。我々はそこに往々にして騙されがちです。ですが、その結果に至る過程や「絵」にならない地味な(見えてこない)部分がむしろ重要だと。その見えてこない部分の姿勢が、その人とお金の関係性を決定づけると本書は言ってます。心の持ちよう、思考、マインドセットの持ち方がビリオネアをビリオネアたらしめる根拠なのだと。

マインドセット

紹介されてる5つのマインドセットの一つに「共感力と想像力」が含まれてます。自分も最近思っていることなので強く共感しました。お金が集まるかどうかって結局思考の良し悪し。10億の資産を持つかどうかはともかく、考え方ひとつでお金を稼げるかどうかが決まるってことがよく分かります。

これからますます国や会社に依存して生きることができなくなっていくので、自立しなきゃと思う人には思考を変えるきっかけの本になるかも知れません。国が福祉をぶった切らざるをえない時期は迫ってるし、企業も従業員を養うことを徐々にやめていくでしょうしね。だから正しい思考で正しく稼いでいける人になりましょうと言ってくれる本でもあるなと感じました。

 

僕は今年が頑張りどころなんですけども、今の思考ベースはあらかた間違ってないことを再確認できたのと、上記の通り3.が誤解だと理解できたのが本書からの収穫でした。


2016.03.28 (Mon)

久しぶりに書評です。ビジネス書。

MITで教えられている、ビジネスを始める24ステップがまとめられた書籍です。ビジネスをどのように立ち上げてどのように成長させていくか。その為に考えるべき全てが網羅されていると言って良いでしょう。

紹介されている24個のステップは大きく6つのテーマに分けられています。

  1. 顧客はだれか?(6)
  2. 顧客のために何ができるか?(5)
  3. 顧客はどうやって製品を手に入れるか?(3)
  4. 製品からどうやって収益を上げるか?(4)
  5. どのように製品を設計すべきか?(4)
  6. どのように事業を拡大すれば良いか?(2)

カッコ内の数字は24ステップのうち何個がそれぞれのテーマに属するものかを表していますが、「顧客」という言葉が入ったステップは実に14個、半分以上を占めています。ビジネスを起こす以上は、当たり前に熟考しないといけないのに結構忘れがちな「顧客」という要素について、全方位的にどんな視点で考えるべきかをよく解説してくれていると思います。

これだけのことを考えて事業を営んでいるか?と振り返ってみると、自分が過去に起こした事業の多くで抜け落ちていたステップが多く反省しきり。B2B事業の経験がなければ3つ目のテーマの重要性とか分からなかったりするので、その意味でもっと早く読みたかった書籍ですね。僕の場合はB2B事業を始めたとき、ほとんど考えられてませんでした。

売上をどうやって上げるかという回収戦略が列挙されているのも参考になります。興味深かったのは、facebook に買収された instagram が何のビジネスモデルも無く運が良かっただけとバッサリ切ってるところ(笑)。フリーミアムモデルには最近疑問を感じているので共感するところでした。

また、全24ステップをクリアしてからでないとビジネスを始めるなということではなく、とにかくやってみること、必要最小限にして動いてみること、を説いているのも現実に則していて良いですね。

見込み顧客と接触したり、市場の一次調査をしたりする行動に重点を置くことを忘れないで下さい。

起業家は、賢明でフレキシブルな行動を求められます。常に実行し、前進して、アイデアと製品を実際の顧客で試しながら、成功へのらせん階段を昇っていきましょう。

本書の最後にある言葉です。やはり正解は御客様や社会が知っているんですよね。だから、その声にいち早く触れること、そのフィードバックを取り込むこと、そのサイクルを繰り返すこと、とはいっても闇雲にやるのではなく考えながら進めること。そのバランスを正しく取る助けに本書は間違いなくなると思います。

良い書籍に巡り会えたことに感謝ですね。ことあるごとに見返す書籍になりそうです。事業を起こす方には間違いなくオススメですが、価値を御客様に届けるまでのプロセスを作るのにどれだけのことが考えられるべきかよく分かるので、経営者だけでなく全てのビジネスパーソンが読むべき本だとも思いました。星5つ★★★★★です。


2015.05.24 (Sun)

久しぶりの書評です。

4062189445 日本インターネット書紀 この国のインターネットは、解体寸前のビルに間借りした小さな会社からはじまった
鈴木 幸一
講談社 2015-03-13
by G-Tools

 

インターネットの世界に身を置いてる人は知らない筈がないインターネットイニシアティブジャパン(IIJ)の鈴木会長の著書。日本の歴史書である日本書紀をもじった本書のタイトル「日本インターネット書紀」は、本書の内容を端的に表現しており言い得て妙。JPNICが書く表層的な年表とは違い、日本の商用インターネットがどんな人達によってどんな想いで作られてきたかが良く分かります。

想いが詰まっているという意味では、鈴木会長の経営哲学を随所に垣間見る事ができ、共感できるところや学びを得るところが多く、単なる歴史書ではない面白さがあります。社史であると同時に歴史書でもあり、それでいて経営に関する指南書でもある書籍はなかなかありません。

文句なしの★5つ。

IIJさんと取引のある関係者は当然として、仕事でインターネットに関わるビジネスパーソンや起業家の皆さんには是非とも読んで貰いたい本です。というのも起業家が必ずぶち当たる壁にあのIIJの創業者もぶち当たっていてそれを突き破ってきた実話にエネルギーを貰えるから。

妄想に近い確信」という本書内の言葉が個人的にはとても響いたのですが、何か会社を起こすとか事業を立ち上げるとか新しいことを始める時って必ずそれを持ち続けることが必要で、だからこそ成功する筈なんですよね。鈴木会長はそれをずっと持ち続けてきた。インターネットが世の中を変える、インターネットが当たり前になる、どんな事業も最初は真面目に聞いてくれる人がほとんどいない悲しみと空しさに苛まれるもんですが、諦めなかった。

「将来の大きな話をすればするほど、無力感だけが募る」(p.97)

それでも言い続け、機会を作って行動を続ける人のところにヒトもモノもお金も運も集まるように世の中はなっているのでしょう。郵政省を動かし、銀行から融資保証を受け取り、その途端に一気に物事が動き出す第1章終盤,第2章のくだりの躍動感は、へこたれそうになってもやり続ける元気を与えてくれます。

かといって動き出したら順風満帆って訳ではなく、山有り谷有りが企業というもの。第3章,第4章と続くクロスウェーブコミュニケーションズ(CWC)設立から会社適用法までとその後の過程も当時の新聞記事などに触れながら実に生々しく描写されています。

潰える夢もある。もうなんというか会社って大変ですよねと共感しきり。規模の大小はあれ山も谷も経験している自分も沢山の力を得ました。パワーを貰ったってのは amazon のレビューにも同じようなことが書かれているので、この書籍の特性の一つでしょうね。どんな経営者も頑張るぞってなれます。

民事更正法と会社更正法の違いとか、やっぱり苦境の時は公私ともに銀行様に苦しめられてしまうのか〜って実利的な勉強になったポイントも結構あります。経営者としての考え方に共感できることも多く、

技術を看板に超大企業と競争しようとすれば、いつも先行するほかない。どんな状況でも大きく化けそうな開発を続けていかなければ、勝負にならない。…(中略)…「濡れぞうきん」とは、ぎゅうぎゅうに絞るだけでなく、技術者にある程度の遊びを許容しておくということである。(p.213)

競争力の源泉は、やはり人間以外にない (p.221)

このあたりは自分も常々感じていることなので、再確認できたのは非常に良かったところです。今やどんな企業も個人も「技術」とか「知見」とかの尖りポイントで生き残りをかけるしか無く、ヒトが生み出す価値への着眼と、それを突き詰めるリソース(時間・お金)的な余裕を少なからず持つ必要がありますよね、やっぱり。

他にも読書メモは色々残ってるんですが、書き切れないぐらいに沢山ありました。線も沢山引いたし、付箋もだいぶ貼りました。学びの多い一冊。本棚に残しておいてまた何かの時に読み返すことになるかも知れません。

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弊社はIIJさんとは、特にSYNCNELでお取引をさせて頂いているほか、iOSアプリ開発やiDEP関連で御相談を頂くこともあったりとか、かつては僕の誤解から大変失礼な態度を取ってしまった事もあったり(その節は申し訳ありませんでした…)とか、結構深い関係を構築させて頂いています。

だから、という訳ではないんです、たまたま本屋で気になるタイトルの本を見付けて手に取ったのがこの本で、迷う事無く購入して読んでみたら大変示唆に富んでいたと。深くお付き合いさせて頂いている取引先の創業者が書かれた書籍を読むって初めての体験で、とても良いものだなと思いました。苦楽の歴史や激動の過去、経営哲学を垣間見させて貰えるのって素晴らしいことです。世の中、電子書籍もお手軽になって盛んですし、全ての社長さんは本を書くと良いと思う…って自分の事を棚に上げてそう思った次第。

ちょっと脱線しましたが、お勧めの★5つ本の御紹介でした。本書の最後には、

インターネットが引き起こす変化は、ようやく序章が終わっただけ、本当の大変革はこれから始まろうとしている。…(中略)…インターネットは、いまだ、無限の可能性のほんの一端が具体化され始めたにすぎないのである。(p.445)

とあります。これ程までに進化したインターネットがまだ序章であるとはホント同感で、僕も若干末恐ろしく漠然と感じているところでもありますが、その未来にプラスの方向で会社としても個人としても貢献が出来ればと思っています。