今年は沢山の本を読みましたが、中でも2016年マイベスト本となった LIFE SHIFT には考えさせられました。結構話題にもなってた本ですね。良い本だったので、ちょっとご紹介したいと思います。
リンダ グラットン,アンドリュー スコット 東洋経済新報社 2016-10-21
正直、辛い内容ではあります。特に、60歳や65歳まで仕事して後は引退するつもりでいる方には、悲壮感と焦燥感しか湧かない本と言えるかも知れません。厳しい現実を突きつけてきて、人生の再設計を促してくる本です。でも敢えてそういう方こそ読むと良いんじゃないかなと感じました。
(Thanks! the photo on flickr by Taichiro Ueki CC BY-ND 2.0)
寿命が伸びて老後資金が足りなくなる
老後に必要な資金は3000万円とか、1500万円とか、色々諸説あります。家族構成もライフスタイルも人それぞれだし、老後に求めるQoL(Quority of Life : 生活の質)によっても違うので異なって当たり前ですが、本書は その老後資金計画で、そもそも足りますか? という問題提起をしています。
引用されてる「Human Mortality Database」によると、2007年に生まれた日本の子供の平均寿命は107歳になるそうです。日本はただでさえ平均寿命が世界トップクラスで男性80歳、女性86歳なのに、まだまだ平均寿命が伸びるというのです。
当然、今30代や40代の人でも100歳まで生きる確率は徐々に高まっていきます。人生は50年でも60年でも80年でもなく、100年になると。そうすると、
ほとんどの人は、長い引退生活を送るために十分な資金を確保できないのだ。この問題を解決しようと思えば、働く年数を長くするか、少ない老後資金で妥協するかのどちらかだ。(序章 p.20)
ということにならざるを得ません。通常、少ない老後資金で妥協する(生活水準を落とす)のは難しいので、働く年数を長くするという選択しかないでしょう。それができずに苦労されているのが、昨今社会問題視されている老後貧困や老後破綻ですね。
年金も退職金もこれから更に頼れなくなります。所得代替率は低下していくし(年金、年取るほど目減り 現役所得比で40%台に 厚労省が試算)、退職金制度のない企業も増えて退職金額も引き下げられる傾向にありますから。
老後の収益は、(1)公的年金+(2)退職金+(3)自助努力 の3本柱とされるそうですが、長寿命化して老後資金が不足しがちだから(1)(2)で補填してくれる…とは考えにくく、もう(3)しかない訳です。
(Thanks! the photo on flickr by Duane Storey CC BY-NC-ND 2.0)
働く期間が長くなるなら…..
せいぜい仕事するのは40年間程度と考えていたのが、60年間とか70年間に渡って仕事をすることになります。
好きでもない仕事を60年間続けなくちゃいけないのは苦行でしょうし、逆に、それだけの長期間に渡ると1つのキャリアを貫く仕事人生ではいられない確率も高くなります。時代の変化はますます激しくなって、現役中に幾つもの職業が失われたり新しく生まれたりする…。
だからこそ、自分が本当にやりたいことをよく考えなさいというのが本書の勧め。
その為に、自分をよく知るよう努めること、キャリアチェンジを恐れないこと、その為の勉強の時間を惜しまないこと、新しいスキルを身につけ、積極的に新たな経験を受容すること、評判を確立してそれを巧くアピールし、健康でい続けるようにし、仲間を作ること等々、これらの努力で得られる 無形の資産 もお金と同様に必要であると説き、その重要性を語るのに膨大なページを割いています。
仮想の人物の仮想の人生も描かれているので、未来を想像する助けになると思います。
リンダ・グラットン プレジデント社 2012-07-28
結局、人生のシフト(LIFE SHIFT)と言っても、仕事のシフト(WORK SHIFT)なんですよね。僕は LIFE SHIFT をそう読み取りました。著者の前著である WORK SHIFT も併せて読むと良いと思います。
(Thanks! the photo on flickr by Sharada Prasad CS CC BY-NC-ND 2.0)
死ぬまで仕事するしかない時代へ
少し LIFE SHIFT から脱線しますが、実はとある書籍との出会いで、LIFE SHIFT の寿命に関する考察は甘いのではないかと思い至りました。そのことを最後に少し書いてみようと思います。たまたま手に取ったこちらの書籍。
読んでみて驚いたのですが、分子生物学が今、もの凄いことになっているらしいのです。100歳寿命なんてまだ可愛いもんで、500歳まで生きるなんて話まで出てきてます。
デザイナーベビー(遺伝子操作された赤ちゃん。生まれる前から病気を治せる)の誕生や、骨を折れにくくしたり肥満体質を改善する遺伝子操作、容姿や身長を遺伝操作しうる可能性の示唆、がん・ダウン症・パーキンソン病といった困難な病を遺伝子操作で改善する話などなど。
人の寿命が今まで以上のスピードで伸びるようになるであろう技術が紹介されています。クリスパーというそうで、テキストエディタで編集するように遺伝子操作できるとは著者の表現ですが、もはやSFがもうSFじゃなくなってしまう勢い。期待というより怖さを感じます。
人は神の域に近づこうとしているなと。
(Thanks! the photo on flickr by MIKI Yoshihito CC BY 2.0)
倫理の問題、法の問題、色々あるけど、寿命は凄い勢いで伸び続けるに違いなくて、もう 老後に備えてどれだけ貯めておくべきかの議論なんて意味をなさなくなるのでは とこの本を読んで感じました。
寿命を推定し、引退年齢を(科学の急速な進化を無視して)決めて、その先は現金資産を切り崩して生きていく人生設計をしていても、いざその歳になった頃に平均寿命が更に10年伸びてました…となっていたら目も当てられませんから。
引退とか老後の安心は、限られた人の特権になっていくのでしょう。僕らは働くのをやめない時代に突入しようとしてるんだと思います。個人的には仕事好きなので、元々そのつもりではあるのですが。
一方で、いつまで生きるか生きてみないと分からない、だから老後の計画が実質立てれない、ということならいつまで生きるか先に決めてしまおう…と、いつ死ぬかを決めてから逆算の人生設計をする時代になる可能性だってあるかもとも思いました。
…
随分長々と書いてしまいましたが、LIFE SHIFT、自分の人生について再考するきっかけになる良い本です。併せて、更に考え込むことになる ゲノム編集とは何か も是非。いずれもコレという打開策が提示されてる訳じゃないのですけど。でも、旧来型人生設計では破綻する未来を恐れず直視して、今のうちに色々考える機会を沢山持って早めの行動を起こすほうが遥かに良い、と意識を新たにさせてくれる本でした。