最近本を読みまくってますが、たまにはアウトプットしないとねということで久しぶりのレビュー。
本屋巡りをしていてたまたま見つけた本です。買う気も無かったし、そもそも存在すら知らなかったんですが、ふと目に入って目次を見たところ何となく今読むべし!と感じて購入。いぁこれはホントに良書でした。こういうことがあるので本屋をぶらつくのが好きなんですよね〜。
企業の最重要KPI
本書が問いかけるのは「企業が最も重視すべきKPIは?」ってこと。もしこの問いに対する解に「市場シェア」「売上」「販売数量」「契約数」が来る方は、この本から沢山の発見と気付きが得られるのではないかと。(僕もそんな一人)
著者は、一貫して企業は何よりもまず利益重視であるべき と主張しています。利益は他の企業目標を超越した指標であって、
年度末に「あるといいもの」や「嬉しい驚き」として利益を扱っている場合ではないのだ
と手厳しい。なぜなら、
利益は生き残りの条件であり(中略)ビジネスを続けるためのコストである
から。当たり前っちゃ当たり前なんですけどね。利益が大事なのは皆頭ではわかってますから。
ただ、多くの企業で実際のところは営業や経営者が「利益」を軸に考えれてないと指摘しています。優劣を売上規模で判断する風潮は依然としてあって、事業計画や実績評価を売上や販売数や市場シェアを指標にしがちだと。
だから、「20%の値引きをした商品で元と同じ利益水準を保つ為に必要な販売数増は?」なんて基本的な問題にも、「20%増です」という間違った解答をする人が多いのだそうで。そんな訳ねーよ、利益のこと考えてるのか?分かってねーなと著者。ま、そんな乱暴な言い方ではないですが。
利益を第一義におくとはどういうことか。
利益は売上とコストの双方を同時に考えられる唯一の指標であり、従って プライシング こそが最も重要であるというのが著者の主張。売上を上げるのも重要だし、原価下げるのも重要だけど、価格の付け方次第で利益を今まで以上に確保できるんですが著者のスタンスです。
価格付け以外になにもしていないのに利益が上がったという事例はマジックのよう。著者にしてみればマジックじゃないのでしょうが。だから、もっと考えろ、と言わんばかりにページをめくれどめくれど価格、価格、価格の話。目次を見るだけで著者の情熱を感じることができます。
- 第1章 痛烈な洗礼を受けた私の価格体験
- 第2章 価格を中心にすべてはまわる
- 第3章 プライシングの心理学
- 第4章 価格ポジショニング
- 第5章 価格は重要な利益ドライバーである
- 第6章 価格決定における見当ポイント
- 第7章 価格差異化という高度なアート
- 第8章 プライシングのイノベーション
- 第9章 経済危機への対応と価格競争
- 第10章 プライシングはCEOが取り組むべき仕事である
…ホントに最初から最後まで価格のことしか書いてない(笑) 文字通り価格に始まり価格に終わります。価格をテーマにこんなに文章が書けるのかという驚きからくる興味が本書を購入した最大の動機ですが、読んでみて腑に落ちました。
価格学
「学」というと言い過ぎかも知れませんが、価格をテーマにありとあらゆることが書かれている印象です。価格を付ける根拠に何を持ってくるのかのパターンや事例(第5章)、価格体系をどう定めるべきかそのパターンや事例(第7章)、価格の付け方にもイノベーションがあること(第8章)、などなど。
イノベーションを取り上げた第8章は特に興味深いです。航空機のエンジンを売るGE社がもはやエンジンに値付けをしていない事例は、プライシングが時代と共に進化することを感じさせます。GE社が何に価格付けをしているかは是非本書で見てみて下さい。クラウド系ビジネスの人なら慣れてる思考ですが、ビックリしますよ。B2Bでももうそんな時代なんだ…と。
第7章で価格付けのことをアートと表現しているのも、本書中の数ある事例から納得できます。価格が1種類じゃないことと利益最大化の関係の論理的な説明は、なるほどなと。価格付けとは何と奥深いのでしょうか。
本書を読み終えたから適正価格が分かる訳ではありません。「掟」を手にしたところで、それが今自分が直面している価格付けの課題にピッタリな答えを示してくれる訳でもないでしょう。事例や市場によって事情は異なりますから。ゆえに価格は本当に難しく、本書がただ悩む要素を増やすだけという可能性はあります。僕も実際、価格付けが怖くなりました。
が、価格について思考する・試行するのに役立つ気づきや発見が何かしらある本です。なんせ、10章全部、約300ページに渡って価格のことしか書いてないんですから。いみじくも今日、大塚家具が苦境に立たされていることがニュースになってました。
大塚家具の業績はなぜこれほどまでに落ち込んだのか。大きな理由は二つある。一つは中途半端な価格戦略だ。
価格の設定を誤った例ですね。現預金の減り方が半端ない。価格が大事というのはこういうことなのでしょう。久美子社長も本書を読んでたら多分こうはならなかったかも知れないなぁと感じました。
という訳で、価格コンサルティング会社CEOが記した書籍、価格の掟。事業に責任を持つベンチャー企業の社長にも、新しく事業を起こすマネージャの方にとっても示唆に富む一書のご紹介でした。