僕は根っからの読書好きで書籍も雑誌も大量に持っています。実家の押入れには漫画も結構あります。

iPadが出ると分かってから、裁断してスキャンしてPDF化して持ち歩きたいと思いました。実際 PFUさんのScanSnapPLUSさんの裁断機を購入してそうしました。iPadはiPad2へと進化して、iPhone は Retina ディスプレイで解像度を上げ、iBooksを始めPDFビュワーアプリも物凄い勢いで沢山登場し、僕は益々読書用端末としてiPad/iPhoneを使うようになったのです。

'Dictionary' photo (c) 2009, Greeblie - license: http://creativecommons.org/licenses/by/2.0/

ただ、読書体験を決めるアプリについては色々と試せば試すほどユーザとして感ずる事が増えていきました。それは弊社メンバーも同様なのですが、あれも欲しい、こんな事も出来たら良いな…と。

例えば、

■ PDFの管理方法

  • 実はGoodReader的な感じでファイラの体を成してる方が整理し易いんじゃないか
  • MacOSXにあるようなスマートフォルダ(検索条件を記憶して常にマッチするファイルだけを集めて表示してくれる仮想フォルダ)のようなものがあった方が、雑誌やシリーズ物のPDFが管理し易かったりしないか
  • もっと言えば、毎日読書するのなら1日以内に開いたPDFがすぐに参照出来るとか、登録日が直近3日以内のものを常に一覧出来ると便利じゃないか

■ PDFの閲覧方法

  • ページを送っていく感覚だけじゃなく、もっと一気に全体を俯瞰出来たりすると、特に雑誌等の場合は読みたい場所に辿り着き易いんじゃないか
  • 段組コンテンツのPDFはiPhoneでは特に見にくいが、実は工夫次第で読み易さが提供出来るんじゃないだろうか

等々です。読書が好きだからこそかも知れませんが色々思うところが増えてきた訳ですね。

普段は既に存在しているモノをちょっとやそっとの違いで自ら作ろうとはしません。先のエントリで書いた車輪の再発明になるだけで、そこには経済的合理性がほとんど無いからです。作者の方に要望を伝えて実装されるのを待つほうが良い。何より「世に無いモノを作り出し、世界を変える」という弊社の理念に合いません。

'The wheel, close up' photo (c) 2007, Aubrey - license: http://creativecommons.org/licenses/by/2.0/

でも、どうもですね、電子書籍化したPDF(または連番jpgを圧縮したZIP BOOK)の管理と閲覧についての考えを自分らなりに突き詰めていくと、既存のモノとの差異がちょっとやそっとでは収まりそうになく、結構違うモノのように思えてきたのです。管理の考え方だったり、閲覧面での機能であったり、それこそ新しいコンセプトが形成されつつあるんじゃないかと。であれば、

自分達で新しいビュワーを作ってみたらどうだろう?

と思い至りました。

 

実は、余り表には出ていませんでしたが、幸いにして社内にはiOSにおけるPDFを扱うノウハウが結構蓄積されています。というのも、弊社プロダクトの一つであるSYNCNELが自前実装のPDFビュワーを内蔵していた為。

コアとなる技術もあるし、やってみたい事も増えてきて、電子書籍リーダを作る材料は揃った訳です。

 

PDFについては、先日のエントリ(EPUBは本当に必要か。全部PDFで良いじゃないか)で、ページの概念を必要とする旧来型の書籍/雑誌の電子化はPDFが最強というFinalAnswerは出ているという主張や、PDFかEPUBかという論説を書きました。専門家から「偏っていると思うし危険な発想」と言われたり、中には「こいつはヴァカでok」という低俗な中傷をするだけの残念な反論コメント(ですらない)もありましたが、僕の考え方は変わりません。

従来の雑誌や書籍というメタファーで閲覧する限りにおいては、是非を論ずる余地はもはや無くPDFが他を圧倒的に凌駕する是であると思っているので、フォーマットを論ずるよりも、最強たるPDFによって電子化された書籍をどう管理し、どう閲覧し、電子ならではのリッチな体験をどう実現するか…にしか興味がありません。だから、先のエントリに書いた通り

  1. PDFを如何にリッチにするか
  2. PDFを如何に読みやすくするか
  3. PDFを如何に管理し易くするか
  4. PDFを使って如何に新たな読書体験へと読者を誘(いざな)うか

が追求すべき事項であろうと。

結局、「自炊」という風習が、書籍や雑誌という形式を電子化するには(読者にとって)PDF化が一番適した解なのだという事を示していると思うんですよね。この現実を真摯に見ないといけないと思います。

年間7万とも8万とも9万(2010年出版年鑑によると8万弱)とも言われている新刊の出版物を全部PDFでも販売して、同時に過去の書籍全てをPDF化して流通させれば、さんざん電子書籍化に失敗してきた理由にあがるコンテンツ不足なんて解消する筈なんです。雑誌も含めれば100万冊なんて一瞬じゃないですか。

PDF最強と既に解が出ている所で同じ議論を繰り返すより、権利や法律の整備に労力を費やした方がよっぽど合理的。例え現実的だと思えないとしても…です。そこが事の本質だし、結局同じ問題にはぶちあたるのですから。

 

とまぁ論旨がずれてきそうなのでチョット戻しますと、PDF(そしてZIP BOOK)という電子書籍の形式を大前提にした追求を iPad/iPhone のアプリでやってみたいと思っています。最初は「2. PDFを如何に読み易くするか」と「3. PDFを如何に管理し易くするか」という2点から。地道な所ではありますが、まずは足場を固める事に重点を置きながら、その上で 1 や 4 の追求をしてみたいと思います。

新たな読書体験を目指す前のめり感を出したくて、僕らはこれをBook+(ブックプラス)と名付けました。

今更感があると評されるかも知れないのですが、それでも電子書籍時代の新しい読書体験の一例として世に一石を投じれたら良いなと思っています。そして、既存のリーダーアプリの作者の皆さんやユーザさんと一緒に盛り上げていって「もう全部PDFで良いじゃないですか」という現場の声を大きくする一助になれれば良いなと。読み手の声がゆくゆくは(まずは日本の電子書籍業界という狭い(?)世界かも知れませんが)本当に世界を変えていく力なのかも知れないなと思うのです。