久しぶりの小説です。グイグイ引きこまれて一気に読みきってしまいました。

 

中国の威信をかけた世界最大規模の原子力発電所の建設から稼働、そしてその後を描いた物語。後半で物語の中心となる原発の名前を福島第一原発と読み変えれば、預言だったのかと思えるぐらいに3.11直後から起こってきたことと同じ事が描かれている驚くべき作品です。

電源の全喪失、予備の電源も失われる危機的状況、建屋の爆発と火災、放射能汚染…等々。

書かれたのは3年以上前なのに小説の中で起こった事がリアルな惨状と余りにも酷似しており、読みながら驚きを隠せませんでした。最後がビックリするぐらい尻切れトンボな終わり方で拍子抜けしたのですが、今ならば関係者に聞き込みをせずともノンフィクションとして続編が書けるんじゃないかってぐらいです。

読了して強く感じたのは、実はこの小説は中国に対しても預言になったりしないかなという恐怖感。

色んなモノが何故か爆発するのは有名な話ですし、四川大地震で散々あらわになった杜撰な建築の数々や、記憶に新しい高速鉄道の衝突事故など、品質や安全の信用を失墜してばかりの中で、果たして安心して悪魔の劫火となり得る原子力発電所の運転を任せられるのか。(まぁ日本においても前例が出来たので、その意味では同じですけど)

今中国で稼動している原発は11基だそうですが、十数年後には世界一の原発大国になる規模の計画もあったと言いますし、3.11で少しブレーキはかかってたものの最近こんなニュース(中国、12年初めにも原発計画の審査・承認再開へ=報道)もあったりで。

将来3.11と同じ事が起きやしないか。例えば沿岸に建設される中国の原発がそれこそ爆発でもしようもんなら考えたくはないけど日本終了は確実な訳で。原発神話が脆くも崩れた今、リスクの極めて高いモノをリスクヘッジが総じて甘いと思われている隣国が扱っている事実、そしてもっと扱おうとしている彼らの気概に僕は素人ながらの恐怖を改めて感じざるを得ませんでした。

…とは言ってもここまでスケールが大きくなるとどうしようもない感がありますが、それでも楽観視は出来ないというやり場のない焦燥感は募るばかり。ホントどうすりゃ良いんでしょうね。橘玲の「大震災の後で人生について語るということ」の書評エントリでも書きましたが、何かに依存せずとも自立できる術を見に付けて生き続ける為のスキームを組み立ててくしかない…ってのが僕の今の解ですけども。

 

って訳で真山仁のベイジン。小説として引き込まれる魅力がありましたが、3.11の後に読むととても複雑な心境になってしまう作品でした。登場人物の一人、日本の技術顧問である田嶋が楽観視出来ない状況下でも「それぞれの使命を全うすべし」と言った言葉は自分にも向けられている気もしました。もの凄く考えさせられます。

…とはいえ、最後の尻切れトンボはやっぱり残念だったので★4つ。