久しぶりの書評です。

4062189445 日本インターネット書紀 この国のインターネットは、解体寸前のビルに間借りした小さな会社からはじまった
鈴木 幸一
講談社 2015-03-13
by G-Tools

 

インターネットの世界に身を置いてる人は知らない筈がないインターネットイニシアティブジャパン(IIJ)の鈴木会長の著書。日本の歴史書である日本書紀をもじった本書のタイトル「日本インターネット書紀」は、本書の内容を端的に表現しており言い得て妙。JPNICが書く表層的な年表とは違い、日本の商用インターネットがどんな人達によってどんな想いで作られてきたかが良く分かります。

想いが詰まっているという意味では、鈴木会長の経営哲学を随所に垣間見る事ができ、共感できるところや学びを得るところが多く、単なる歴史書ではない面白さがあります。社史であると同時に歴史書でもあり、それでいて経営に関する指南書でもある書籍はなかなかありません。

文句なしの★5つ。

IIJさんと取引のある関係者は当然として、仕事でインターネットに関わるビジネスパーソンや起業家の皆さんには是非とも読んで貰いたい本です。というのも起業家が必ずぶち当たる壁にあのIIJの創業者もぶち当たっていてそれを突き破ってきた実話にエネルギーを貰えるから。

妄想に近い確信」という本書内の言葉が個人的にはとても響いたのですが、何か会社を起こすとか事業を立ち上げるとか新しいことを始める時って必ずそれを持ち続けることが必要で、だからこそ成功する筈なんですよね。鈴木会長はそれをずっと持ち続けてきた。インターネットが世の中を変える、インターネットが当たり前になる、どんな事業も最初は真面目に聞いてくれる人がほとんどいない悲しみと空しさに苛まれるもんですが、諦めなかった。

「将来の大きな話をすればするほど、無力感だけが募る」(p.97)

それでも言い続け、機会を作って行動を続ける人のところにヒトもモノもお金も運も集まるように世の中はなっているのでしょう。郵政省を動かし、銀行から融資保証を受け取り、その途端に一気に物事が動き出す第1章終盤,第2章のくだりの躍動感は、へこたれそうになってもやり続ける元気を与えてくれます。

かといって動き出したら順風満帆って訳ではなく、山有り谷有りが企業というもの。第3章,第4章と続くクロスウェーブコミュニケーションズ(CWC)設立から会社適用法までとその後の過程も当時の新聞記事などに触れながら実に生々しく描写されています。

潰える夢もある。もうなんというか会社って大変ですよねと共感しきり。規模の大小はあれ山も谷も経験している自分も沢山の力を得ました。パワーを貰ったってのは amazon のレビューにも同じようなことが書かれているので、この書籍の特性の一つでしょうね。どんな経営者も頑張るぞってなれます。

民事更正法と会社更正法の違いとか、やっぱり苦境の時は公私ともに銀行様に苦しめられてしまうのか〜って実利的な勉強になったポイントも結構あります。経営者としての考え方に共感できることも多く、

技術を看板に超大企業と競争しようとすれば、いつも先行するほかない。どんな状況でも大きく化けそうな開発を続けていかなければ、勝負にならない。…(中略)…「濡れぞうきん」とは、ぎゅうぎゅうに絞るだけでなく、技術者にある程度の遊びを許容しておくということである。(p.213)

競争力の源泉は、やはり人間以外にない (p.221)

このあたりは自分も常々感じていることなので、再確認できたのは非常に良かったところです。今やどんな企業も個人も「技術」とか「知見」とかの尖りポイントで生き残りをかけるしか無く、ヒトが生み出す価値への着眼と、それを突き詰めるリソース(時間・お金)的な余裕を少なからず持つ必要がありますよね、やっぱり。

他にも読書メモは色々残ってるんですが、書き切れないぐらいに沢山ありました。線も沢山引いたし、付箋もだいぶ貼りました。学びの多い一冊。本棚に残しておいてまた何かの時に読み返すことになるかも知れません。

iij_20150524

弊社はIIJさんとは、特にSYNCNELでお取引をさせて頂いているほか、iOSアプリ開発やiDEP関連で御相談を頂くこともあったりとか、かつては僕の誤解から大変失礼な態度を取ってしまった事もあったり(その節は申し訳ありませんでした…)とか、結構深い関係を構築させて頂いています。

だから、という訳ではないんです、たまたま本屋で気になるタイトルの本を見付けて手に取ったのがこの本で、迷う事無く購入して読んでみたら大変示唆に富んでいたと。深くお付き合いさせて頂いている取引先の創業者が書かれた書籍を読むって初めての体験で、とても良いものだなと思いました。苦楽の歴史や激動の過去、経営哲学を垣間見させて貰えるのって素晴らしいことです。世の中、電子書籍もお手軽になって盛んですし、全ての社長さんは本を書くと良いと思う…って自分の事を棚に上げてそう思った次第。

ちょっと脱線しましたが、お勧めの★5つ本の御紹介でした。本書の最後には、

インターネットが引き起こす変化は、ようやく序章が終わっただけ、本当の大変革はこれから始まろうとしている。…(中略)…インターネットは、いまだ、無限の可能性のほんの一端が具体化され始めたにすぎないのである。(p.445)

とあります。これ程までに進化したインターネットがまだ序章であるとはホント同感で、僕も若干末恐ろしく漠然と感じているところでもありますが、その未来にプラスの方向で会社としても個人としても貢献が出来ればと思っています。