このエントリはフィクションです。こちらのエントリから先にお読み下さい。

 

(あらすじ)

2015年4月1日、裁断済み書籍の情報を共有し、自分の欲しい書籍の裁断本を「ゆうメール」の着払い料金だけで手に入れられるサービス「裁断本の森」が正式ローンチした。β版の頃から1年に渡って築き上げられたその仕組は、合法的にPDF複製を大量生産する読書家ネットワークであった。出版社の電子化対応の遅さに苛立ちを感じて始まったという本サービスの開発元にビジョンを尋ねた。

 

では、読書未来はどこで収益を上げるのか?代表の大阪太郎氏に聞いてみた。

「収益なんて考えてないですよ、別に。単に読書が好きなだけですから。でも一つ言えるのは、本も本棚もリアルには必要ない事が多くなってきたって事です。iPadに入ってればそれで十分です。一度に数百・数千冊持ち運べますし、OCRかけてれば検索も出来ますしね。あと、僕はPDFに目次情報も付けてるんですよ。紙の本より格段に読み易くなります。電子化ってこういう事ですよね。」

大阪氏は続ける。

「最近考えるんですよ。本って何だろうなって。紙って何だろうなって。

僕らは、活字による視覚的刺激を文脈として捉えて楽しみたいだけなんですよね。音声や動画を付けてリッチにとか、インタラクティブにとかって言いますけど、それは本質じゃありません。

単純に、紙じゃない別の媒体でコンテキストを表現できる時代になったのだから、読むのも買うのも保管するのも、もっと便利な方法、つまり電子的媒体にスイッチしたいだけなんです。紙の書籍と同じ値段でPDFを売ってくれても良いのになって思うんですけどね。

でも、日本の出版社の方はほとんど動いてくれなかった。むしろ逆に、もう4年前だったか、当時も流行っていた自炊代行業者に矛先を向けて抑圧しようとしましたよね。でも結局変わらなかった訳です。

便利な形で書籍を電子化して欲しいだけ。やって貰えないなら自分でやりますよ….、ただそれだけなんですよね。僕はそれを合法的に『みんな、もっと大規模に自分たちで電子化しようよ』って、やってみたんです。システムは大した事ありません。元となる雛形は気分転換に1日で作った程度ですから。儲けなんて考えてませんよ。本が便利にゲット出来たらそれで良いんです。

自宅にみんなスキャナがあって、欲しい本は全部『裁断本の森』を介して入手する。新刊は誰かが買って登録する。そして、回りまわって自分の所にも届いてくる。そんな時代になったら便利だなと今は思いますね。もう待ってるのは限界じゃないですか。

それにこの規模の会員さんに使って頂けるようになった今、単行本30冊買うならスキャナ買って『裁断本の森』を使った方が得ですよ。新しい時代の本の買い方じゃないですかね。電子化は自分でやる。その為に裁断された書籍が流通している。そんな世界。」

jis11 © 2010 Ryuichi IKEDA, Flickr

もはや質問する事はないと思ったが最後に1つだけ、極論を言えばもう紙の本なんていらないのか、と大阪氏に訪ねてみたら否定された。

「違います。紙はプレミアムになるんですよ、きっと。手に触れて形として視認できて存在を感じれるモノは凄く貴重なものじゃないですか。それだけはデジタルには真似できません。印象に残った雑誌、人生を変えた書籍、そういったモノはお金をかけてでも紙にしたいですよ。

だから僕は大切な本はやっぱり裁断してないし、『裁断本の森』で手に入れた作品で感動したものは、書籍を改めて買いましたよ。中には『裁断本の森』を廻ってた絶版本にもの凄く感動した事があって、それは何とかしてPDFから製本出来ないかなって思ってるぐらいです。これはダメかもだけど。まぁ、それは置いといて、とにかく紙は絶対に残ってて欲しい。でも全てが紙である必要はない。そういう時代だと思うんです。」

こんもり © 2010 H Aoki, Flickr

1時間の取材で分かったのは、純然たる読書を楽しみたいという読書家の想いが、タブレット型端末の登場とホームスキャナの低価格化とITの進化とによって、行き着く所まで行ってしまったという事だ。

『裁断本の森』のユーザはもう元には戻れないだろう。

大阪氏は紙の書籍は重要で購入する事もあると言っていたが、実際に購入する機会はやはり減ってしまったそうだ。しかし、出版社がPDFやjpeg化した電子化書籍をもっと早く販売してくれていれば、多分購入していたし、『裁断本の森』なんて作ってなかったとも言っていた。それはつまり、電子化を真剣に進められなかった出版社が、自らその収益機会を不可逆な形で損失させてしまったという事を意味しているのではないだろうか。

『裁断本の森』の存在を知ってからというもの、裁断された書籍が日本中を駆け巡っている様子が度々脳裏をよぎる。このままでは益々コンテンツの作り手が減っていき、全体の質は落ちていき、読書好きにとっても望まぬ未来になるのではあるまいか。大阪氏率いる(株)読書未来が見せる読書の未来は、結果として誰も幸せになれない未来のように思えた。

(終)

 

という訳で、実際に起こりかねないなと想像しながら未来を書いてみました。実際に起こりかねないなと思ったのは、法的に明らかに問題であると言えるシーンが無かったからです。

一度、こういう世界が出来るとますます電子化は難しくなるんじゃないかなと思います。確かに電子書籍にも色々事情があると思いますが、圧力をかける時間を、既存書籍の電子化からでも良いので可能な所からやっていく時間として使って頂きたいなーと一読者としては思います。まず有償PDF単体で販売する所からでも良いでしょうし。ホントお願いします。