久しぶりに読んでてワクワクした書籍。賛否両論分かれるかも知れませんが、個人的に読んでて凄く響くものがありました。幸せとは何かを論理的に語るという新しい幸福論の先駆けとなる書籍かも知れない…そう思ったのです。一気に読み切ってしまうこの本の愉しさは、テクノロジーと人の幸せについて新しい関わり方を提示する未来を感じさせてくれる事にある気がします。

ウェアラブルセンサを使って計測した人間の活動(具体的には加速度センサによる手の動き)記録から、人間を支配する逃れられない法則がある事を導き出しているのが非常に興味深いです。それが人の幸せや労働生産性を論ずる所まで発展するのには興奮すら覚えました。

もう一度いおう。幸せは加速度センサで測れる。

という著者の断言は決して新興宗教の戯れ言ではなく、マッドサイエンティストが都合良くデータを解釈した無茶な論理的飛躍(狂言)でもなさそうな事がこの本から分かります。

加速度センサをはじめとする様々なセンサのデータから人間の思いや心を読み解けるということ。

例えば、あるプロジェクトのメンバーに体の動きを含む様々な指標をセンサーで計測しながら、ある事を行った時に幸せと感じたかどうかのヒアリングをした実験が紹介されています。人が幸せだなぁと感じる度合いと身体的な活動量(センサから読み取ったその人の活動の多さを指標化したもの)と相関があるというのです。

じゃ、活動量が多いなら幸せと感じるのだから活動量を増やしましょうというアプローチで行動原理を変えましょう、そうすっと幸せになれる筈ですよね…というのが本書の論理。組織も社会も人も、人間の活動そのものの大量のログからどうすべきかを学ぶべきだと。

とあるコールセンターでの実験も紹介されていて、各種の計測値から導かれる値とオペレータの受注率に相関があり、実はオペレータの性格やスキルよりも「休憩時間中の会話の活発度」が大きく寄与していた事が分かったというのですね。だから、スキルを磨く事よりも休憩時間中の会話の活発度が上がるような仕組み・制度を作った方が売上が上がると。

他にも、とある店舗での実験紹介では、四六時中、店員と顧客の店舗内位置情報を大量に記録、そこから、店内の特定の場所に店員が長い時間立っていれば立っているほど店舗売り上げが上がる事が読み取れたという話もあります。で、実際に「この場所に長く立つように心がけて下さい」と呼びかけると売上が上がったという…。

…とまぁこのように、人間の活動を逐一記録した結果得られる大量の観測値から、行動指針をあぶり出し、より幸せを感じるようにしたり、より受注率を高めたり、より売上を上げたりといった事を行えることを本書は示しています。

これって普通に凄く無いですか?

どこぞのコンサルやメンターの言う事を真に受けてあーでもないこーでもないとやってる暇があるのなら、人間の大量の行動ログの中に潜む見えざる導きの手(何らかの傾向や相関)に組織も人も自らの行動を委ねても良いんじゃないかと言っています。

 

いみじくもこのブログエントリを書いているのは2014年9月10日のAM1時、iPhone6と同時にiWatchが発表されるのではないかと世界の期待感がピークに達している時間帯です。もし本当に iWatch が出るのなら、この書籍のテーマ「幸せを測る」「行動を設計する」といったユーザ体験を人類にもたらすプラットフォーム的なデバイスになる事でしょう。

個人的見解ですが、iWatchのようなウェアラブルな端末は、何かを表示するとか、何かを知らせるとか、何かを制御するとか、…っていう事よりも、多種多様なセンサー群を駆使した、言うなれば Lifelog Anytime Anywhere を実現する事にその本質があると考えるからです。iLoggerと言っても良いぐらいと思ってます。

まぁ実際出るかどうかは分かりませんが、もし出るのなら、本書が掲げる幸せを測る、観測値から人間の行動に変化を促すようなアプリケーションや関連サービスを是非とも開発したいと思う次第です。